Ｎｏ．１０８７：寿限無（じゅげむ）

落語の『寿限無（じゅげむ）』は、わが子の名前に目出度い言葉をみんな付けた噺である。「寿
限無寿限無・・・長久命の長介」とナント２００字に近い。だから、何かが起きると大変だ▼うち
の息子がよそ様に乱暴を働いたなどと騒いでも、「寿限無寿限無・・・長久命の長介が乱暴を」
と、子どもの名前を言っている内に、相手の怪我が治ってしまう。健やかな成長を願っての親
心が笑いを誘う▼名前は親が佳き名と信じてつけるから、親の期待がこもっている。堀口大學
の名も立派である。生まれたわが子に「大學」と名付けた親の想いはいかばかりであったか。
出生当時、父が東大生だったことからというが、きっと頭脳明晰な成長を願っての命名だった
のだろう▼だが小学校の時、「なぜ大學だ！小学生のくせに」と虐められたという。30歳を過ぎ
て小石川（東京都）に一家を構えた時、家がたまたま拓殖大学の通学路に面していた。表札を
見た学生たちが「こんなちっぽけな大学がある」と感心していたとの逸話もある。あるいは「お
宅の大学の出版物を寄贈してほしい」など▼そのような揶揄にも負けず、大學は日本の文学
界に大きな足跡を残した。長岡藩士を祖父（戊辰戦争で戦死）に持つ大學は、旧制長岡中学
校（現・長岡高校）を卒業し詩人として大成する。１９７９年には文化勲章を受賞した。大學は名
前負けしなかった▼今月28日から12月10日まで長岡市立中央図書館で、12月２日からは県立
近代美術館で、堀口大學の回顧展が始まる。楽しみなことである。（とけいそう）