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悠久録(過去の悠久録はこちら)
No.738:約束のあり方を問いかける『走れメロス』
2014年1月1日分
悠久録

太宰治(1909〜1948)の『走れメロス』は、約束のあり方を問いかける▼主人公のメロスは
羊飼い。政治の事は何もわからないが、正義感だけは極めて強い。ある日残虐な王に故無く
して囚われる。死刑である。だが妹の結婚式には出席したい。時間までに必ず戻るからと誓っ
て無二の親友を身替りに立てる。そして走る。式が終わって、また走る。刻限までに戻らねば
友を失う。間に合えば自分の命はない▼だが次々と行く手を阻む難題が起きる。これでは間
に合いそうもない。このためメロスは約束を破りたくなる。友もメロスが戻ってこないのではない
かと一抹の疑惑を持つ。たとえ瞬時であっても2人が持った心の揺れに、作家は醒めた眼差し
を向ける▼だがメロスは走り続け、刻限に間に合う。その真情に残虐な王の心が感動に包ま
れた。そして友はもちろんメロスを解放する▼昨年、自民党は公約に無い「特定秘密保護法」
の採択を強行し、12月13日に公布した。激しい国会審議の後、みんなの党が分裂する。党首
が自民党渡辺派を標榜したからという。アンチ自民党だったのでないか。公約と違う、支持者
への裏切りであると両党共に自省と非難が渦巻いている▼人の心は弱いもの。揺れがちなも
の。それでも太宰はメロスを走り続けさせた。「疑いながらためしに右へ曲るのも、 信じて断乎
として右へ曲るのもその運命は同じ事です」と『お伽草子』のなかで喝破する▼新しい年は新た
な課題が満ちている。それでも勇敢に走り続けなければならない。(とけいそう)。


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