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愛縁奇縁
No.113:「いまだ木鶏にたりえず」


〇大相撲は日本人の人気スポーツ。逸話に満ちています。その一つに横綱双葉山(1912〜
68)の69連勝があります。36年から39年にかけての連勝でした。だが、70番目の取り組みで安
藝ノ海に敗れ連勝記録はストップします。このとき横綱は中国の古典『荘子』から「われ、いま
だ木鶏たりえず」と師である陽明学者安岡正篤(1898〜1983)に報告したと聞きます。もっ
と精進します、と謙虚に語ったのです。

〇「木鶏」(もっけい)とは、木造の鶏のこと。当然周囲の変化に反応は示しません。仲間(?)
の鶏が挑みかかっても抵抗しないし、声も発しません。木像だから当然のことですが、中国の
故事では、そのような対応こそ本当の強者であるとします。
何事にも動じない心を最善とした比喩というべきなのでしょう。
古い言葉であって、自己PR優先の昨今ではあまり聞きません。しかし、つい最近耳にしまし
た。語ったのは安倍首相です。

〇ことの発端は、2月19日の衆院予算委員会の席上で安倍首相が繰り返したヤジでした。首
相は「日教組はやっている」と答弁席からヤジを飛ばし、民主党議員による前農林水産大臣の
献金問題への質問をけん制しました。
予算委員長が「静かに」と制止しても、首相は「日教組はどうするのか」と言葉を重ねたといい
ます。これでは、採決に賛成票を投じるだけの「陣笠議員」並です。

〇さらに翌20日にも「日教組が補助金をもらい、(その)教育会館から献金をもらっている民主
党議員がいる」と主張。これが真実とは全く異なる事実無根でしたから、さらに追及を受ける羽
目に陥ります。
ついに首相は陳謝。「いまだ木鶏たりえずという気持ちだ」と語っています。一国の首相が自ら
答弁席からヤジを飛ばすのは、いただけません。そのうえ内容が事実無根では陣笠議員以下
というべきでしょう。
勇み足が過ぎました。

〇ほぼ同じ時期に、ロシアに木鶏の見本のような事件が生じています。
プーチン政権批判の急先鋒だった元第1副首相ボリス・ネムツォフ氏の暗殺(2月27日)です。
数万人規模の追悼デモも起き、社会に衝撃を与えています。
犯人は政権による、と欧米系メディアが報じたのですが、プーチン大統領は動じません。ネム
ツォフ氏は政権にとって脅威ではない。だから暗殺する必要がなく、そのような報道は西側の
謀略であると主張します。
ことの真偽は判明しませんが、つまらないヤジに熱中している姿とついつい比較してしまいま
す。

〇それでも冷静に考えれば、ヤジで済んでいる日本は幸福です。
立派な木鶏になって問答無用になれば、物事は悲惨になるばかりです。
(黄色い風見鶏)

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